1.まつりの概要

  我が家は、守山市幸津川(さづかわ)町にある。幸津川の中心に下新川(しもにいかわ)神社がある。毎年、5月4日から5日にかけて行われるこの祭は「すし切りまつり」と呼ばれている。最大の見所は、5月5日の正午ごろ、若衆2人が古式にのっとり「ふなずし」を切り、献上する「すし切り」の儀式である。

  この「ふなずし」は、乳酸で発酵させたあの滋賀県名産のふなずしの元祖といわれている。

 まつり全体は、祭礼式法記にのっとって行われる。

  なお、この「すし切り」の他にも、鉦(かね)、ささら、しっころなど、「さんやれ」の囃子にあわせて踊る「かんこの舞」や「長刀踊り」、御輿の巡行も行われる。最近は、見物客も増え、テレビでも紹介されることが多い。

  もう一つのハイライトは、5月4日に行われる宵宮である。氏子入りを祝って、青年たちが裸で大太鼓を打ちならしながら家々を回る。これは夜通し行われる。

 

2.祭の組織

  すし切りまつりは、毎年行われる。氏子は一番組〜六番組のいずれかに属する。このうちの2つの組が、その年の祭礼を直接担当することになっている。

  1つ目の組は「渡番」として、「すし切り」「かんこの舞」「長刀踊り」等を担当する。2つ目の組は、前年の渡番が「みこし番」として御輿の巡行を担当することになる。1年毎に担当する組が変わるので、当番組は6年に一度、回ってくることになる。「すし切り」を行う若衆も、それ相応の年頃で回ってきてはじめて担当できることになる。

 渡番は、組長の他に、おおむね次のような役割がある。( )は人数をあらわす。

板直し(2) すし切り(2) 表警護(2) 音頭(2) かんこ(2) ささら(2) しっころ(2) 鉦子(1) せり鉦(1) 太鼓(1) 羽織警護(2) 鉾(1) 長刀 馬口(2) 後引(2) 別当(1) 太鼓持ち(1) 口上(4) 御輿通夜 賄宮詰 組宿詰 

 

3.5月4日の祭礼

  祭礼全体は祭礼式法記に則り行われる。

  宵宮には裸の若衆が大太鼓を担いで、町内を夜を徹して祭の祝いに回る。この宵宮は、地元の青年団が采配を行っている。

  午後9時ごろになると、一回目の太鼓練り(巡行)に入る。事前に羽織り・袴の正装で、提灯を持った代表者が訪れ、訪問の旨を伝えてあるので、訪問先では、若衆の祝いを待っている。訪問先は、各組長宅と新たに氏子になった家が中心になっている。家々では、煮豆、海老の煮物、大根の漬物の三種の肴で若衆たちをもてなす。大太鼓が玄関に入り、若衆がそれを打ちならす様は勇壮である。

  巡行には、小中学生などが役員や親の付き添いのもとで、「ちょこせ、ちょこせ」のかけ声を出し、高提灯をかざして同行する。このような巡行が、午前0時ごろと、午前3時ごろにも行われる。第3回目の巡行が終わる頃、その年の御輿番が担ぐ御輿と若衆の担ぐ大太鼓が神社の参道付近で競り合う「卯の時渡し」が続く。この頃になると、うっすらと空が明るくなる時間帯になっている。

 なお、5月4日は朝から次のような準備が行われる。

・午前9時ごろ みこし番が御輿庫から御輿を拝殿に移し、飾り付けを行う。

・同じころ、渡番は御輿庫、神社境内の掃除を行うとともに、すし切りを行う祭場に竹垣をめぐらす。

・午後1時ごろ、渡番の役員やみこし番等が同席し、巫女による湯立ての神事が行われる。

・午後4時ごろ、長刀、ささら、しっころなど、渡番の担当者が神社を参詣する。

・午後5時ごろ、「こころみ」として三匹のすなずしを使用し、「すし切り」神事の稽古あげを行う。

・午後10時ごろ、組長、自治会長の立ち会いのもと、「神渡し」が行われる。

 

4.5月5日の祭礼

  5月5日は朝から神事が行われる。自治会役員や宮世話の立ち会いのもとで行われる。その後境内では、「すし切り」が行われる。

  当番組から選ばれた若衆2人が、金箸と包丁を古式ゆかしくふなずしを切っていく。2人の前には、神職と自治会長が座り、「すし切り」を見守る。周りには、来賓をはじめ、御輿番の面々、新たに幸津川で生まれた赤ん坊、見物客がいる。2人の呼吸が合わないと周りの人々から温かいが痛烈な指導のヤジが飛ばされる。前年度に「すし切り」を経験した先輩の手助けも得ながら切り終えると、いよいよ「かんこの舞」や「長刀踊り」が奉納される。

  その後、御輿を従えた行列は、旧の舟だまりをはじめ辻々で鉦、太鼓、ささら、しっころなど、サンヤレの囃子にあわせて一踊りまたは二踊りし、小宮さんと呼ばれる大水口神社まで練ってゆく。小宮さんを出発する頃は、太陽も沈みかけている。

  下新川神社に戻った行列は、境内で最後の踊りと御輿の収めにかかる。その後、組長宅に戻って、祭を終える。

 

5.すし切りの神事

 文字どおり「すし切りまつり」のハイライトがこの「すし切り」の神事である。

・まず、羽織袴の「板直し」二人が、魚の煮物、小芋、煮豆を各膳にのせ、正面の神職と自治会長の前に差し出す。

・脇差しをつけた「すし切り」役の二人が、膳を神職と自治会長に差し出す。

・「すし切り」役の二人が、神職と自治会長に御神酒をつぐ。

・「板直し」二人が、瓶子で神職と自治会長に赤椀で御神酒をつぐ。

・みこし番の入場の後、「板直し」の二人が大型のまな板に鮒10匹をのせ、神職と自治会長の前に置く。

・「すし切り」役の二人が、袱紗と脇差しを横に置き、箸を左手に、包丁を右手に持って包み紙の試し切りを行う。

・次に、向きと場所と変えながら、大きな動作で鮒を切っていく。時々、「板直し」が懐紙で包丁を拭ったり、汗をふくなどの手伝いをしながら、3匹の鮒を切っていく。

・切り終えると、脇差しを腰につけ、再び箸と包丁を両手に持って御輿庫に帰っていき、「すし切り」の神事が終わる。

 

6.交通の便

  JR守山駅から路線バス(近江バス)小浜行きに乗車。幸津川バス停下車。守山駅より約20分。バス停前に神社の鳥居が見える。

  名神栗東インターから、琵琶湖大橋に向けて走行する。洲本信号を右折し、通称「浜街道」(国道477号線)を北上。下新川神社前を、この浜街道が通っている。ただし、駐車場は用意されていない。

 

7.まつりの今昔

  今でこそ簡素化された面があるが、一昔前は厳格なしきたりの中で祭礼が執り行われていたという話である。

  まつりは女人禁制であり、すし切りを行う「若衆」も長男しか出られない、といったことであった。最近の少子化の波の中で、女児の出番も増えるようになってきている。宵宮でも巡行が簡素化されている。みんなが楽しく参加できるすばらしい祭でありたいという幸津川町民みんなの願いの中で、残すべきものと変えていくものを探っている。


8.神社について

 すし切りまつりが行われる下新川神社の他に、この近在でよく似た名前の神社がある。

 一つは滋賀県野洲市野洲にある上新川神社、もう一つは滋賀県守山市立入町にある新川神社である。これらは、ともに野洲川(一級河川)の近くにあり、関連があると思われる。

 下新川神社では、おしどりが神の使いとされている。

(左は新川神社、右は上新川神社の鳥居)


※まつりの詳細については、引きつづき工事を続行し、内容の充実に努めます。

※このページをご覧いただいた方は、是非5月5日に実際にご見学下さい。