下新川神社神祭式法記

(出典:「近江のケンケト祭り・長刀振り 民俗文化財地域伝承活動1」滋賀県教育委員会)

神事当番式法

一.渡当番は御神酒料として御宮より御年貢(大組壱俵半、小組弐俵)を受取る事

二.踊子役割之儀は四月三日に組中寄合致し熟議之上万事取決め致す事

三.踊子役割相済候上は二、三日中に本年渡番相務め候間、小渡其他万事宜敷御願申すと役方五組頭へ定使を廻す事

四.「ならし」相始め候節は、前日に「明日よりならし相始め候に付き、御酒御祝に御出席下され」と役方五組へ挨拶に定使を廻す事

五.口開日限ハ五月二日組中相寄、早天より張物拵へをなす事

六.口開日限前日に「明日は口開き致候間御酒御祝に御出席下され」と役方五組へ定使を廻す事

七.口開当日、午後三時に「只今より口開致候故御苦労乍ら御酒御祝に御出席下され」と役方五組へ定使を廻す事


宵宮次第

八.宵宮の前日に「明日は宵宮渡之儀に付宜敷御願申す」旨、役方五組へ定使を遣す事

九.宵宮の早天御輿当番へ御輿庫開次第御貸被下」と定使を挨拶に差遣す事

十.右同断、組中之者は打揃ひ御輿庫開候上は御輿庫の掃除並に各社の金苧鈴縄を差上る事

  社主へは油弐升御神酒壱升半紙弐折指遣す事

十一.右同断、組中役之者は身拵へを致し、午後弐時迄に組頭にて御宮定使の御湯ふれ案内を待つ事

  御湯ふれ使を受けたる時は、組内のもの十人斗り御宮へ参詣致すこと

十三.御宮より御湯ふれ案内を受け候節は、他組へ当番より定使を廻すこと、口上は「踊子御拵被下候」

十四.御湯相済み候上は、直様他組へ定使を廻す事、口上は「只今踊子御出被下候」と遣し、打揃ノ上ハ老海、 漬物、煮豆の三種にて一献差出す、賄は此時躍り(一回)踊込参詣候事

十五.列順ハ小渡、長刀、同警護、筅、同警護、小歓鼓、歓鼓、音頭、擢鉦、鉦子、太鼓、鉾

十六.御本殿参詣後、社前にて左之図に依り躍る事、弐回(※図は省略しました)

  船着にて躍(一回)、帰組被下候上ハ前同断にて御酒を出す、此時踊(二回)、表警護ハ踊口ニ小渡警護ニ一々挨拶の事

十七.踊子帰組の節は、神馬参詣の事、其砌御輿庫迄行き、駆け戻り、神馬ニ水を成し、本殿前に参詣し駆け流し候事

十八.神馬帰組の後ハ、組宅にて板直し御鮓切稽古を成す事

十九.宵宮の夜、御輿通夜の所ハ御輿当番弐人渡番弐人宛にて、見舞之儀ハ酒壱升もろこ煎出一重遣す事

二十.役方社主五組頭ハ午後八時打揃ひ当番組へ挨拶に参ること、其砌、賄方ハ老海、漬物、煮豆三種にて初献を差出し、小魚、味噌汁にて弐献、小魚、作にて三献を差出す事

二十一.午後三時、組中打揃ひ若連中之案内ニ依り御宮へ参詣する事、其砌、御輿組より挨拶を受け、二度目の挨拶あるまで船着広場の東角にて噺しつゝ待合し候事

二十二.御輿馬場に出申候節ハ、御輿の後より宵宮噺をなしつゝ御供する事

二十三.宵宮全く終り候節ハ、御輿当番より挨拶を受け帰組之事


五日神事式法

一.組中早天より打合リ御宮神事場の竹垣をなし、二間薦を新調の事

二.午前十一時、御輿当番、渡当番の組頭ハ式ニ参列の事

 組中役の者は身拵へをなし、同時刻迄に組頭に打揃ふ事、打揃ノ上ハ他組ヘ定使を廻す事

 口上ハ宮詣致度き故御拵を御願ひ申候と挨拶のこと

三.宮詣ハ正十二時、神馬先走り参詣の事、次に鮓切板直し、口上賄方、賄方は御酒、鮓、小魚頭、大角弐枚、小角十枚、柳箸、銚子弐、御酒徳利二本、三献用赤椀六、土器大四枚小十五枚、板折敷四枚を持参之事

四.御宮詣相済候上ハ御輿番ヘ定使遣す事

 口上ハ只今御宮詣相済候故御苦労乍ら御宮へ宜敷御願申候と挨拶の事

 又小渡組への口上ハ、只今御詣相済候故御出席御願申すと挨拶の事

五.踊子打揃候上ハ、一献差出、躍り(一回)踊込参詣の事、其砌、踊子ハ鳥居前にて御鮓切相済候迄待合す事、此時表の警護ハ神事取締の事

六.神事御神酒終了次第、定使を御輿番ニ遣す事、口上は御神酒相済候間御出席被下度と挨拶のこと

七.神事二献終り、三献突出候節御輿番ヘ定使遣す事、口上ハ板直し致度候故御出席宜敷御願申候と挨拶のこと

八.神事之次第

イ.小角(小魚頭煮、煮豆、小芋)、小土器二、三盛、柳箸添の事、板直し左右ニ差出す

ロ.大角(土器大壱枚宛)、鮓切右同断

ハ.御神酒、鮓切、右同断

 口上

ニ.別当、馬案内、但御輿庫迄にて引返しのこと

ホ.初献(板折敷ニ三ツ目赤椀壱ツゝ)、板直し左右ニ差出

ヘ.二献(右同断 汁赤椀)、右同断

ト.三献(同   飯赤椀)、右同断

 但、三献ハ木盃突出ノ儘にて据置キノ事

九.御輿組拝殿ニ着席候上ハ板直しの儀ノ事、此時、板直ハ板之狂ひを正し、包丁を戻し置くこと

十.口上

十一.御鮓切儀式次第

イ.着床と同時に帛紗を出し、脇差を抜く事

ロ.襟直しをなし板を正す事

ハ.箸を取り包丁を抜き、包ミ紙を例し切を成す事

ニ.箸の大廻しをなし、箸先を正し、右の手前の方の鮓より順ニ左鮓の上に積ミ上ゲ、最後一疋を残し置き、三回つゝ刃口にて鱗を拭き、尾の方より三つ切になし、尾と頭とを包丁と箸先にて左右に引別け、中の切目を包丁廻しをなし、夫れを腹の方より三つ切になし、腹の切目と背の切目を前同様左右ニ引別ける事

 而して、頭より箸を上方に使ひ裏返しつゝ背、真中、腹の順序に元の魚に次き、最後に尾を引合せ裏返して鰭返しの儀をなし次く事、然して、箸戻しをなし、礼をなす、此時、別当馬案内の事、其砌、神馬ハ本殿に参詣、其儘御鮓切終了迄待合す事

ホ.箸の中廻しをなし、前同様箸先きを正し、頭を左下に尾を右上に引別け、背を左上に腹を右下ニ引別け、残りの切目を箸にて真中に挟み、右の方より箸ハ其儘にて三つ切になす事、此時、後見の者は切上けられたる鮓を大土器に引取る事

ヘ.次に積上けたる鮓を更に一疋前に置き、前同様にて鱗を拭き、尾の方より四ツ切になし、尾の次の切目を後見人ハ小土器に盛り、社主と役方に三献の肴を差出す、此時、板直しは銚子を操り三献の御酒を注ぐ事

ト.又一疋を前同様にて三ツ切に成し、御輿舁の肴となす

チ.箸戻しを成し、元の位置に箸包丁を置き、帛紗脇差を元に斂め礼をなし、箸包丁を両手に持ち左右に廻り、御輿庫へ引返す事

リ.薦を上け、神馬馳流しの事

十二.踊子前の位置より踊込参詣の事、此時、賄方は御神酒、肴(鮓)の準備を整へ、御輿組に挨拶の上一献差上る事、踊子ハ社前にて三回躍る事

十三.神馬は御鮓切終了後ハ各躍に出席しつゝ先発小宮に参詣の事、尤も御輿御通りの節ハ別当口取正しく其位置に配し、警護ハ神馬の前にて警礼の事

十四.踊子ハ社前の躍終了の上ハ、船着広場にて(二回)、各寺院及辻にて各一回躍りつゝ小宮へ参拝ノ事

十五.踊子小宮に参詣之上は漸次休憩、此砌、御輿組ニ御酒差上挨拶の事

 休憩後(二回)躍り、前同様にて御宮へ戻り、参拝の上社前にて(二回)、船着にて(二回)躍り帰組の事

十六.躍子帰組被下候節ハ、前同様にて一献差出ス、其砌、組頭ハ他組ニ一々御礼挨拶の事、踊子(弐回)躍り、神馬警護の者と五組頭へ御礼廻りニ差遣す事

 之にて五日神事ハ全く終了


六日受渡の事

一.六日早天より組中ハ打寄り、踊子其他道具整へ、明年の渡番組へ定使を遣す事

 口上ハ只今より諸道具引継ニ御出席被下候と使す、出席の砌ハ老海、煎豆、漬物之三種ニて一献差出し、目録に代り両組頭立会之上引継の事

二.受渡相済候節ハ社主役方ニ報告の事


御輿当番式法

一.御輿当番ハ御神酒料として御宮より御年貢(大組二斗、小組参斗)受取る事

二.四月ノ中旬、組中寄合を成し御酒襦袢手拭等の用意をなし候事

三.寄合の翌日、他組へ定使を廻す事、口上ハ本年御輿当番相務め候故、扶舁何人宜敷御願ひ申候と遣す

四.宵宮の早天より組中打寄御輿飾立を成し、渡当番組へ定使を遣す、口上ハ只今御輿庫開申候、御使用被下候と使す

五.渡御順路の修理障害物取除を成す事

六.宵宮御輿伽ハ、渡番と二人宛にて、見舞の儀は赤飯三番重に一重野菜したしを持遣すこと

七.宵宮渡時刻は午前三時、組中の者身拵へをなし組頭に打揃ひ太鼓番の迎ひを待つ事、太鼓番より出迎ひ相受候節ハ老海、煮豆、漬物三種にて一献差上、太鼓番と共ニ御宮に参詣のこと

八.船着広場に到れば、先着之渡番組に御苦労の由挨拶の事、御輿組の太鼓鳥居内ニ入る時、渡番組に二度目の挨拶の事

 口上は只今より御輿を出し申候故宜敷御願申候

九.三、四回太鼓番と共ニ馬場を行き戻りをなし、御輿を拝殿に納め候上ハ、渡番組に終了に付き御苦労之由挨拶の事

 太鼓を叩き賑々敷帰組の事


五日神事之次第

一.組中の者ハ身拵へを成し、正十二時迄ニ組頭に打揃ひ渡番より定使の挨拶を待つ事、二度目宮詰相済候の挨拶を受け候上ハ御酒壱献、祝太鼓を叩き賑々敷出立之事

二.渡番定使より御神酒終了の案内受候節ハ船着広場へ到着の事、次ニ板直し挨拶を受候上ハ、早速拝殿ニ着席参列の事

三.御鮓切式儀終了後、渡番ノ挨拶に依リ御鮓肴にて一献頂戴する事


六日受渡之事

一.早天より明年の御輿当番へ定使を差出すこと、口上は只今より御輿引継に御出席被下候と遣す事

二.受渡相済候上ハ社主役方ニ報告の事

                             已 上